Section1 コンビューターはなぜ人間と会話ができるようにはならないのでしょうか。
どんなに科学者が懸命に挑戦しても、人間との自然かつ継続的な会話ができるコンビューターを作ることは決してできないでしょう。
その理由は、人間の言語での会話はしばしば言葉で明確に表現されないが、一種の「隠れた」意味を持っている発言を含むことが多いからなのです。これらは暗示的宣言とよばれています。そのような発言は使われる言葉、状況や話し手たちの関係やその他の要素によって異なってきます。
コンピューターはそうした発言を理解できないでしょうし、おそらくそれらを不完全かあるいは不自然なものとして解釈するでしよう。
Section2 発言は直接的な意味以外に、時としてどのような意味を持つのでしょうか?
人々はよく、明示的な、あるいは直接的な意味だけでなく,暗示的な意味を持っことを言います。
次の文を例に挙げてみましよう。「私の家の近くには本当においしいイタリア料理店があります。」状況によって,この文はさまざまな必要性を満たす可能性があります。これは単に情報を伝達する手段かもしれません。
しかしこれは話し手が「食事に行きませんか?」と言おうとしている、招待としての役割も果たしているかもしれないのです。
この発言をレストランへの招待として解釈する人は、そのあとにこのような文で答えるかもしれません。
「私はイタリア料理が大好きなんです!」この発言は招待の承諾として, 暗示的な意味すなわち「ええ、私は行きたいです。」という意味を持ち得るのです。聞き手は次のように答えることもあり得ます。
「私は明日早く起きなければならないんです。」この発言は「ごめんなさい、私はあなたと一緒に行けません。」という意味を伝える可能性があるのです。
Section3 なぜ人間のコミュニケーションには推測が求められるのでしょうか?
話し手が使う言葉と話し手の意図は時々異なるので,コミュニケーションには推測が求められます。
聞き手は状況や話し手の性格に基づいて、文の暗示的な意味を解釈しなければなりません。
この質問を例に挙げましよう。
「あなたは遊園地で楽しみましたか?」もしその答えが「そうだな、僕は出口が気に入ったよ。」だったならば、話し手はおそらく「僕は楽しくなかったし遊園地を出て行くまでつまらなかった。」と言おうとしているのでしょう。
しかし聞き手が暗示的な意味を理解しなかったら、聞き手は「遊園地の出口で何かとてもすてきなことがあった。」と考えるかもしれません。したがって話し手は誤解を生じさせないやり方で、聞き手に自分の意図を理解させなければならないのです。

Section4 どのように人々は混乱を引き起こさず、互いに話し合えるのでしようか?
それでは、どうすれば人々は混乱を引き起こさずに最もうまく会話ができるでしようか。たいていの場合,人は他人が理解できることを言おうとしますし他人には自分が受け取りたい情報を与えてくれるのを期待します。言語学者たちは自然な会話の一般規則を考え出しました。もし人々がこれらの規則に従わないと,会話は奇妙に思えるかもしれないの
イギリスの言語学者ポール・グライスは,会話に関する自身の取り組みの中で会話のための規則をまとめました。彼はそれを「協調の原理」とよびました。彼は自然な会話のための4つの「規範」を提案しました。
1 .量:話し手は会話に必要とされる適切な量の情報を与えなければなりません。(「どうやってここに来たのですか?」とたずねられたら一あなたが答えるべきなのは「私は自動車で来ました。」であって「私は自動車で来ました。それはエンジンを搭載した四輸の電動の乗り物です。」ではありません。)
2 .質:話し手は真実かつ有益な情報を与えなければなりません。(もしもその自動車がしばしば故障するならこの自動車はとてもよく走る」と言ってはならないのです。)
3 .関連性:話し手は会話に関連のある情報を与えなければなりません。(あなたの新しい自動車について話している問に一天気について話してはいけないのです。)
4 .様態:話し手は明確で直接的でなければなりません。(「あなたの自動車はとても速く走りますか?」とたずねられた時は一あなたは「それは速く走らない自動車ではありません。」といった混乱を招く発言で答えてはならないのです。)
Section5 コミュニケーションを円滑に進ませるためには,話し手は何をすることが大事なのでしょうか?
話し手は,もし意思の疎通を円滑に進ませたいと思うなら,状況に対して適切な言葉を選択することも大切です。私たちは他人との言葉のやり取りの中で,他人に感じさせてしまうかもしれない,いかなる不快さも最小限にしようとします。厚かましすぎる,あるいはぶつきらぼうすぎる発言は,聞き手に好ましくない印象を与えかねないのです。
教室がとても各くて一あなたは誰かに窓を開けてほしいと思っているとしましよう。あなたは何と言うでしようか?「窓を開けなさい。」という単純な発言は正しい英語かもしれませんが,それは直接すぎるから失礼だと考える人もいるかもしれません。したがって, 話し手は「窓を開けていただけますか?」あるいは「窓を開けていただいてもかまいませんか?」といった,もっとやさしくもっと間接的な頼み方をすることがあるのです。
1970年代に、何人かの言語学者たらが,会話中に相手方の願望に沿わないかもしれない発言を和らげようとする人々の傾向を指摘して、これを慇懃(いんぎん)とよびました。
「ここは少し暑くありませんか?」といった含みのあるほのめかしが誰かに窓を開けるよう頼むためのさらにていねいなやり方としての役割を果たし得るのです。
この文は上記の例が持つのと同じ暗示的な意味を持っていますが、これはいっそう間接的な方法を取っていることにあなたは気づくでしよう。
Section6 なぜ異なる文化を持つ人々の間で蹊解が生まれ得るのでしょうか?
人々は一般に母語での含みのある発言は簡単に理解できます。ところが、含みのある発言は,異なった文化では異なった意味を伝える可能性があり、そのことが結果的に誤解をもたらすことにもなりかねないのです。
例を挙げると、京都のいくっかの地域では,主人は自分の客に「ぶぶづけ(ご飯の上にお茶をかける料理の一種)でもいかがですか?」とたずねるかもしれません。それは実際は「そろそろお帰りになってはいかがですか?」ということを含意しています。この状況で実際に食べ物を出してもらうことを期待するのは、主人に対して失礼になるでしよう。文化についての背景知識が一定しなければ、会話における暗示的な意味は誤解されかねないのです。
Section7 私たちはお互いに話をする場合に何を踏まえておくべきでしょうか?
これまでの例は、人々が会話の中で自己を表現することにするいくつかの方法にすぎません。言葉を適切に選択しなければ、結果として誤解が生じる可能性があります。
こういうわけで、コンピューターは.人間の言葉で人問がするようなやり方で会話することが決してできないのでしょう。
私たちがお互いに話をする時はいつでも.自分たちが言うことが正確であるだけでなく、状況に適したものでもあるように気をつけなければならない。