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日常生活では終始,私たち人間は選択をしなくてはなりません。
単純なこと(どの服を着るかどのテレビ番組を見るか)から人生を変えるようなこと(どの大学に通うのか誰と結婚するのかどこに家を買うのか)まで幅広くあります。
私たちは選択をした後,自分の決断に時おり満足感を感じます。
またある時には,自分の決断を後悔し、違った道を選んでいたらもっと幸せだっただろうと考えます。
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私たちは選択肢が多いほどよりいい事と、思われがちだ。
選択肢がより多いことは,より自由であることを意味すると思い込まれることが多いのです。
「選ぶ権利」があることは肯定的に捉えられ,一方で「選択肢がない」 ことは否定的に捉えられます。
もし私たちが持つ選択肢が1つ増えるごとに自由が増えていくことにつながるとすれば,結果として間違いなく,無限に選択肢があることは, 申し分ないということになるでしょう。
しかし,私たちは大量の選択肢の逆効果も考えなければなりません。
人々はあまりに多くの選択肢に直面すると,途方に暮れてしまいがちです。
さまざまな心理学者やその他の研究者らの研究が証明してきたように,選択肢を多く待つことが,必ずしも人々に好ましい影響をもたらすとは限らないのです。
adverse:逆の massive:大量の overwhelm:圧倒される psychologist:心理学者
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コロンビア大学ビジネススクールの経営学教授, シーナ・アイエンガーは,大学院生の時に選択について研究しました。
彼女は,選択肢の豊富さが子供たちに好ましい影響を与えるということを証明しようとしました。
研究の中で,彼女は3歳児の集団にレゴ,クレヨン,ジグソーパズルなどのさまざまなおもちゃを与えました。
1つのグループでは,子供たちにどれでも好きなおもちゃで遊んでよいことにしました。
もう1つのグループでは,彼女は子供たちに遊ぶおもちゃを1つ与え,その他のおもちゃでは遊ばないように言いました。それから,各グループに遊ばせたのです。
アイエンガー氏がそうであったように,選択の自由があるグループの方が楽しむだろうと考えるのが妥当なのでしょう。
ところが、アイエンガー氏がおもちゃを指定したグループは遊ぶのがとても楽しくて,実験が終わってもやめようとしませんでした。
反対に,「自由に選べる」グループは, あらゆる種類のおもちゃに囲まれて,それほど遊びに熱中しなかったようでした。
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これらの結果が自分の予測に反するものだったことを考慮して,アイエンガー氏はこのテーマをさらにもっと探求することを決めました。
彼女は後に「ジャム研究」と呼ばれた実験に取り組みました。
彼女はその実験で,カリフォルニアのあるスーパーマーケットの入口近くに,2カ所のジャムの試食ブースを設けました。
ある時にはそのブースで,同じメーカーの24種類の試食用ジャムを提供しました。
またある時には,6種類のジャムを提供しました。
そして,研究者らは各ブースでジャムを試食した客の割合および,実際にそのジャムを購入した客の割合を調べました。
研究者たちによると,人々は多くの選択肢が用意された場合の方がジャムにいっそう興味を示すことがわかりました。24種類が試食できる時間中にジャムを試食したのはおよそ60パーセントで,試食できる種類がほんの少ししかない時に40パーセントの客がジャムを試食したのとは対照的でした。
しかし研究者らは,どれくらいの人々が実際にジャムを購入したかを調べた時,たいへん驚きました。24種類の試食用のジャムを提供された客のうち,豊富な品ぞろえにもかかわらず,購入したのはわずか3パーセントでした。ところが6種類のジャムを提供された客では30パーセントが購入したのです。
24種類の味から選ぶように求められた客は,用意された選択肢の多さに圧倒されたようでしたが,6種類のジャムを提供された客の方が,自分たちの好きな味を選ぶのに時間を気楽に過ごしました。
この実験結果は,多すぎる選択肢を与えられると,客たちの購買意欲は実際には減ることを示唆しています。
反対に,どうやら一定の制約があると,購買意欲が高まるようです。
customer:客 purchase:購入する oppose:反対する as opposed to:とは対照的に
flavor:味 volume:多さ limitation:制約
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「ジャム研究」の結果は,アイエンガー氏の著書「選択の科学」の他にもニューヨークタイムズやニューズウイークなどの主要メディアでも報告されました。
彼女は,果てしない数の選択肢から選ぶことを強要されると,人は狂いかねないと述べています。
それでは,彼女は私たちにどうするよう示唆しているのでしょうか。
私たちが選ぼうとしているものごとについて知ることが多くの選択肢に向き合った場合に正気を保つ秘訣だ,と彼女は書いています。
人々は,自分たちが選ぼうとしているものが持つある特性を,そのもの自体よりも好む傾向があります。
したがって,例えばあなたが自動車を購入しようとする場合,手に入りうる自動車の膨大な種類に圧倒されるかもしれませんが,自動車について多少知っていれば,「サンルーフがついた4ドアのセダンが欲しい」と言えるでしょうし,あなたの選択は対処しやすくなるのです。
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別の研究者らは,選択という問題についてさまざまな観点を示してきました。
宗教研究を專門とする人類学者,植島啓司は,選択をするという行為そのものが不幸につながりかねないと主張しています。
彼は著書『偶然のチカラ』で,このテーマについて2つの見解を示しています。
1つ目として,人々は自分たちが行う選択が正しいかどうか,自分たちでは確かめることができないと彼は書いています。
1つの選択をしたら,別の選択はできないのです。したがって,人々はその選択をしたあとの自分たちと,別の選択をした場合になっていたはずの自分たちとを,比較することはできないということです。
彼の2つ目の主張は,誰もがすでに以前に選択をしてしまっているという事実によって縛られているので,偏りのない判断をすることは誰にもできないということです。
人々は何かを選択する場合,その選択に責任を感じます。そして,そうした責任感が原因でそのあとの行動での自由が制限されてしまいます。それゆえに植島氏は,私たちは与えられた選択肢で最善の努力をするべきだと主張しています。
あまりにも多くの選択をしようとして頭を混乱させるよりもむしろ,自分たちが置かれている状況を受け入れて,それに応じた生活をするべきだというのです。
capable:才能がある be capable of:できる neutral:中立的な judgment:判断
bound(<bind:縛る) accordingly:応じて
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植島氏と同意見の人もいるかもしれませんが,間違いなくほとんどの人は,選択をせずに人生を送るのは不可能だと考えるでしょう。
どれだけ避けようと頑張っても,私たちは人生のある時期に選択に向き合うことになります。
圧倒されるような数の選択肢のことでうろたえることは,私たちが皆むしろ避けたいと思っている事態です。
アイエンガー氏が「ジャム研究」で明らかにしたように,選択肢に圧倒される人々は,まったく何も選ぶことができない可能性があります。
選択に対処する最良の方法は,おそらく選択を行う前に知識を身につけ,そしてその後はその決断に満足することでしょう。