NEW TREASURE STAGE5 LESSON7 "Education Fever" in South Korea 和訳

Section1

韓国ではおそらく世界中の他のどこよりも,個人の学業成績が人生の方向を決める不可欠な要素なのです。韓国人の成人にとって,大学教育なしに仕事で成功することは,ほとんど不可能です。それに対して,生徒が立派な大学に入学すれば,高給の仕事,仕事上でも社会的にも役に立つコネ, さらに好ましい結婚の見通しが多かれ少なかれ保証されることになります。大学入学は,大学修学能力試験での成功にかかっており,これが非常に重要視されているのは驚くに当たりません。

 

試験当日は,町や都市がいつもより静かになります。仕事は遅く始まり,早く終わるので,通勤の混雑はあまりなく,生徒の遅刻も少ないのです。聞き取り試験の間は飛行機の離着陸が禁じられ、警察はドライバーに学校近辺では静かにするよう求めます。試験日は,誰にとっても一大事なのです。

 

Section2

組織上,韓国の教育制度は日本と似ています。 6年間の小学校のあと,生徒は中学校に3年間通います。高等学校は義務教育ではありませんが,中学校卒業後にはほぼ100パーセントの生徒が, 3年間の高等学校教育を引き続き受けます。 日本の制度とは別の違いもあります。 日本と同じように,大学の学位を得るための履修課程は大部分が4年かかりますが, 日本で大学や短期大学に進学する生徒の割合は55パーセントをやや上回る一方で,韓国ではその数字が80パーセントを超えているのは,驚くべき違いです。

 

日本と同様に,多くの生徒が学習塾に通いますが,韓国のほうがその時間は長く,生徒の負担はずっと重いのです。東京の生徒の半分が学習塾に定期的に通うのに対して, ソウルでは73パーセントの生徒が週に5~7日通います。大部分の中学生は,放課後に少なくとも午後9時30分まで塾にいます。年長の生徒は,真夜中を過ぎてようやく学習塾を出ても,家に帰ると山積みの宿題が待っている, ということがあるかもしれません。彼らは,起きてまた学校へ行く時間になるまで,たった4, 5時間の睡眠しかとれないかもしれないのです。

Section3

生徒に夜の睡眠をわずか数時間しかとらせないのは,思いやりのある子育てのようには思われないかもしれませんが,親たちは韓国で勉学に励むことの重要性を十二分に承知しています。彼らは自分たちのできるあらゆる方法で,子供たちを支えたいと考えているのです。試験期が近くなると,韓国の教会や寺院は試験の成功を祈る親たちであふれかえります。大勢がそこでそのまま,試験が始まる前に夜を徹して祈りを捧げることになります。最近算出されたところによると, 1人の子供の誕生から大学卒業までに必要なことの世話をするには,およそ23万1千ドルの費用がかかり,その大半は教育に費やされています。

 

1カ月単位では,平均して522ドルもしくは世帯の収入の16パーセントを毎月子供たちの教育に費やしている,とソウル特別市庁は報告しています。

 

Section4

英語教育にもまた非常に重点がおかれています。韓国の都市には,授業を英語で行う私立の学校が多数あります。休日や週末には,子供たちは韓国の「英語村」の1つへ送り出されるかもしれません。そこでは職員全員が英語を母語とし,英語を話す環境で生徒が数日間生活したり勉強したりできる小さな地域社会となっています。

 

大勢の生徒が,英語能力を向上させるために海外で学びますし,子供たちの英語教育のためだけに,家族で英語圏に移住することもあるでしょう。韓国語で「雁のパパ」と訳される表現さえあり,それは子供たちが勉強できるように,自分の家族が海外に行っている父親のことをいいます。その父親は自国にとどまって仕事をし,家族に送金します。雁が渡るように,父親は夏と冬の休暇の間に,家族に会いに飛んで行くだけなのです。

 

Section5

韓国では教育が重要視されているので,生徒の猛勉強および親による投資はすべて成果を上げており,韓国の生徒は総じて日本の生徒よりも成功を収めているように見えます。国際学習到達度調査(PISA)は,さまざまな国々の学業成績を示す統計を発表しています。読解力に関するPISAの数字によると、韓国は2000年に世界第6位で、2003年には第2位, 2006年に第1位に上昇しました。のちに再び第8位に上昇したものの,同期間で日本は第8位から第15位に転落しました。数学では,日本は2000年には韓国をリードしていましたが、2009年までに第9位に落ちてしまい,韓国は世界第4位になっています。

 

Section6

しかし,こうした成功にもかかわらず,親にとっての高額な教育費や,生徒にとっての延々と続く勉強のストレスと試験の重圧が,多くの深刻な問題を引き起こしてきました。教育に高額の経済的費用がかかるということは,多くの親たちが2人以上の子供を教育する金銭的余裕がまったくないことを意味しており,そのためもうける子供の数を制限するのです。韓国保健社会研究所の代表は,「子供の教育に膨大な資金を費やさなければならないという親たちの見通しが,我が国の出生率が低い1つの理由となっている。」と指摘しました。一方で,学業で成功しなければならないという重圧が,若者の間での驚くほどの自殺者数をもたらしてきています。そこまではしない生徒でも,他の国々の生徒よりも勉強していて幸せそうには見えないのです。ある国際的調査では,韓国の38パーセントの生徒が理科の勉強は楽しいと答えており,数学の勉強を楽しいと答えたのはわずか33パーセントでした。これをアメリカ合衆国と比較してみると,生徒の成績はどうやらかんばしくないようでも,54パーセントが理科の勉強を楽しんでいると答え,41パーセントが数学の勉強を楽しんでいると答えたのです。成功への重圧が,韓国の生徒が勉強することで得られる楽しみをすべて取り去ってしまっているようです。

 

Section7

隣国である日本と同様,韓国は天然資源に乏しいですが,自国を優位にするために,「人的資本」に多額の投資をしてきました。この投資が高水準の学業成績という形で成果をあげており,韓国はPISAのランキング表で日本よりもいつも上位を占めています。しかし,この成功には相当な犠牲が伴っています。おそらく韓国にとって,この犠牲が大きすぎはしないかどうか,じっくりと考える時期なのでしょう。